ひなまつりに迷うこと、おだいりさまは右か?左か?

ひなまつりがある3月。

華やかで装いが美しい雛人形は、女の子にとってちょっと特別な存在で、私も子どものころからひなまつりが大好きだった。

普段は物置きの奥にしまってある雛人形用の箱を、母がガサゴソ動かし始めると、近くにまとわりつきながら子ども心にソワソワした。

気品のある人形を眺めるのも好きだったが、何より「この日のため」「私のため」という限定的なくくりが特別感たっぷりで嬉しかったのだろう。

 

そんなひなまつりも、母になり、また違った心境で迎えている。

 

   

  

おだいりさまが、右か? 左か?

 

毎年決まって悩むのが、おだいりさまが右か左かという問題だ。

なぜか雛人形と確定申告だけは、去年の記憶がすっぽり抜け落ち、イチから予習のような復習に励むことになる。 

 

わが家の雛人形は、私の実家から譲ってもらったもので、飾り付けに迷ったときは、アルバムを開けば当時の写真が問題を解決してくれる。

といっても、わが家にあるのは、おだいりさまとおひなさま、三人官女と小物だけ。七段飾りは保管のスペースがなく実家に置いたままのため、飾り付けはそう難しくない。

 

が、今年はちょっと違った。

 

ちょうど雛人形を飾り始める2月は、とあるコラム執筆で、秋田の郷土玩具・八橋人形の「天神様」や「雛人形」について調べていた。そんななか、担当の編集者さんが雛人形の並びについて「梅津さん(八橋人形製作者)は、おだいりさまの位置は(向かって)右といっていた」と、教えてくれたのだ。

 

え? そうなの? 私は一瞬固まった。

  

毎年、アルバムの写真どおりに、おだいりさまを(向かって)左に座らせていたからだ。

  

梅津さんに直接確認すると、「左のほうが位が高いとされているため、おだいりさまとおひなさまが並ぶときは、おだいりさまが左側に座るのが、本来のかたち」なのだという。

つまり、正面から見ると、おだいりさまは右にいることになる。

  

おだいりさまが(向かって)左に座るようになったのは、明治以降のこと。私が取り入れていたのは、明治以降の新スタイルだったというわけだ。

明治以降に、おだいりさまとおひなさまの並びが左右が逆になった理由は諸説あるが、西洋文化が入っていきたことが影響したともいわれている。女性を尊重して優先させるマナーや習慣が関係しているのかもしれない。

  

今も日本古来の風習を大切にする西日本では、おだいりさまが(向かって)右にいることが多く、関東では(向かって)左にいることが多いらしい。東北はどうなのだろう。  

以前に住んでいた愛媛には「座敷雛」といって、お座敷いっぱいに盆栽や小道具などを配置し、庭園のような空間を作って雛人形を飾る風習があるが、当時撮影した写真を見直すと、やはり、おだいりさまが(向かって)右にいた。

  

さて、わが家はどうしたものか。

悩んだあげく、結局いつもどおりの鎮座スタイル(おだいりさまが向かって左)を取り入れた。右か左かは、あくまでも家々や人形店の解釈によるので、どちらでも間違いではない。 

つまり、右も、左も、どちらもアリ。そう分かると、とたんに気が楽になった。

  

  

 

ただ雛人形は、片付けのプレッシャーもズシンと重くのしかかる。

  

雛人形の片付けが遅れると婚期が遅れるといういい伝えが、プレッシャーを生んでいるのだろう。

節句を祝うために出したものが、婚期の遅れに繋がるのなら、もはや出さない方がいいのでは…?と、産後で手が回らないことをいい訳に、2年ほど飾らなかった時期もある。

     

仕事と子育てと家のことに追われる母たちは、24時間では足りないくらい忙しい。

だからひなまつりは、これ以上、母業を増やしたくないという思いと、子どもの節句を笑顔で祝いたいという思いが、複雑に絡み合いながらやってくるのだ。

雛人形を飾った瞬間から片付けのことを考え始め、カレンダーとの、にらめっこが続く。 

      

でも近年は、片付けが遅くなってしまったら「旧暦で祝った」と、思うようにしている。これは愛媛で培ったスタイルだ。

愛媛のひなまつりは、旧暦の4月。つまり、3月3日が終わっても、急いで雛人形をしまう必要はない。これからが本番なのだから。

  

    

 

埼玉に住んでいたとき、岩槻で雛人形を作る人形師を訪ねたことがある。

 

人形の町として知られる岩槻には、人形作りに携わる製作者たちが数多くいる。頭部、手足、胴体、小道具など各専門の職人がそれぞれ分業によって製作し、それらを組み上げて雛人形を完成させる。

その製作工程は気が遠くなるような道のりで、長い歴史のなかで築かれた風習や思想、類まれな美技のうえに成り立っていたことに驚いた。

人形の顔やからだはもちろん、衣装の着物、小道具の漆器、飾りの七宝、保管用の桐箱など、日本のあらゆる伝統工芸が盛り込まれたそれらは、まさに職人技の集大成といえよう。

 

そんな雛人形を「か、か、かわいい~!!!」と褒めちぎり、目をハートにして喜ぶ子どもたちを見ていると、邪念でうごめく私の心もきれいに浄化されていく。結局のところ、この歓声が聞きたくて、毎年重い腰を上げるのだ。

 

考えてみれば、雛人形は1年のうち300日以上は箱の中で過ごしている。だからせめて日の目を浴びるときは、面倒くさいという気持ちは横に一旦置いて、なるべく優しい心持ちで迎えてあげたい。 

来年こそは、もう少し余裕を持ってひなまつりを迎えよう。…と、毎年思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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