日常生活でも、農作業でも、今日では目にすることがめっきり少なくなってしまった「箕(み)」。
私も、使ったことがあるか?と聞かれたら、幼少期に実家にあった箕を面白がって触ったことがあるくらい。それ以降の記憶は、ほとんどありません。
箕の美しさに気付いたのは、秋田に引っ越してきて、イタヤ細工の佐藤定雄さんや箕作りの田口召平さんにお会いしてからでした。

箕の魅力については、秋田魁新報のハラカラ(2021年6月25日版)にも書かせていただきましたが、秋田の箕はイタヤカエデという硬くてしなりのある木と藤などの樹皮を縦横に編んで作られています。
箕が重宝された時代(昭和中期)は、「秋田で作られる箕は、丈夫で長持ちする」と評判で、秋田のみならず近隣地域で好評だったようです。

編組品の集大成といわれる箕作りの技は、「竹つけ10年」と言われるほど、習得するまでに長い年月がかかります。
扇形に広がった独特なかたちを作るためには、細部をきれいに整えながら成形する技が必要で、縁には曲げた竹が付けられています。
組み、折り、曲げ、しなりなど、、、さなざなば要素が組み合わさった箕は、かたちの美しさだけでなく道具としての構造や機能が求められているので、作り手はそれらを熟考しながら「良い塩梅」を体現していかなければならないのです。
昨年、東京文化財研究所主催の展覧会「箕のかたち 自然と生きる 日本のわざ」が開催されました。

残念ながら、私は会場に足を運べなかったのですが、後にカタログを拝読したら、視点の面白いこと!
素材、かたち、用途、風習など、様々な視点から箕が研究され、その違いが詳しく記載されていました。暮らしのなかで、身近な存在だったことを知ることができます。
秋田でも、以前は数か所の地域で箕が作られていたそうですが、今も作り手がいるのはイタヤ細工の雲然箕(写真・左)と、秋田市の太平箕(写真・右)のみ。
しかし両者とも、箕の受注はほとんどなく今は作られていないので、稀少な仕事になりつつあります。
雲然箕と太平箕を並べてみると、よく似ています。

両者とも、イタヤカエデの木が使われていて、かたちに安定感があり、本体の部分は山桜の樹皮で模様が編み込まれています。
縁起の良い矢羽根のような模様は、絣の模様を連想させ、どこか懐かしい雰囲気も。
地域間の伝承経緯は分かっていないそうですが、箕を背中に担いで行商をしていた時代、訪問先で目にした美しい箕に影響されて…、なんてこともあるかもしれませんね。
ともあれ、県内に美しい箕の産地が2つもあるなんて、本当に誇らしいことです。

秋田では、お正月に箕に鏡餅をのせて飾る風習や、十五夜にお団子をのせて飾る風習もあり、箕が折敷(おしき)の役目を担っていました。
これほど美しいかたちが生まれた背景には、そうした風習も関係しているのかもしれません。

いつか、箕について学ぶ工房見学会を開催したいなぁ~なんて思っていますが、いつになるやら。
その時を楽しみに、今はがんばります。