秋田県能代市で作られている能代凧、通称「べらぼう凧」についてご紹介します。
制作しているのは、北村凧提灯店 北萬の北村功さんとマツ子さん。

能代凧の歴史は古く、「坂上田村麻呂の軍勢が渟代地方(現在の能代)の蝦夷征伐の時、空高く揚がった凧を目印に入港したと」という話が伝わっていますが、今の図案が作られ始めたのは明治初期のころ。
北萬も明治20年の創業です。

べらぼう凧には、男べらぼうと女べらぼうがあります。
男べらぼうは頭に芭蕉の葉っぱが描かれ、女べらぼうは牡丹の花が描かれています。

べらぼうめ、べらんめぇ、という言葉が「べらぼう」の語源と言われていますが、これには諸説あるようで、こうした絵が描かれた理由や背景もはっきりと分かっていないそうです。
印象的なのは、なんと言ってもこの「あっかんべー」のお顔!

おどけているのか?威嚇しているのか?真相を掴みきれない表情に、思わず引き込まれます。
目の周りが赤やピンクでほんのり着彩されているのは、お酒に酔っているのか?力んでいるのか?お化粧しているのか?分かりませんが、人としての印象を強めています。
ここがもし着彩されていなかったら、ベロを出すひとつ目小僧や傘オバケのような、妖怪としての印象がさらに強くなるでしょう。
功さんが、「この凧がすごいのは、真上に上がっていくところなんだよ」と、教えてくれました。

凧上げといえば、走って走って、凧がようやく風に乗る!というイメージがありますが、季節風に恵まれたこの地域では、風を一度掴まえたら、そのままクゥ~っと上昇していくのだとか。
凧が空で泳ぐ姿を、真下から眺められるそうです。
理由は、構造にあります。

裏面の竹ヒゴは中央でクロスさせる凧もありますが、べらぼう凧は格子状にヒゴを配置しています。薄く裂いた孟宗竹が使われていて、繊細なヒゴ作りと綿密な設計が勇壮な泳ぎに繋がっていることがうかがえます。
「小さな頃から凧作りを見て育ってきたし、やっぱり大切に受け継いでいきたいなって」と話すのは、マツ子さん。

北萬に生まれ、2代目として活躍した父の仕事を見て育ったマツ子さんにとって、凧作りの仕事は家宝であり、物心付いた頃には自然なかたちで後を継いでいました。
「せっかく継ぐなら夫婦で」と、大工仕事を営んでいた功さんも仕事を辞めて、凧作りに従事することに。夫婦で力を合わせて、べらぼう凧の技と文化を大切に守り継いでいます。

コロナが長引き、縁起物や厄除けにスポットが当たっている昨今。
べらぼう凧も、そうした視点に注目が集まりますが「本当に効果があるかは分からないわ」と、笑うマツ子さん。
人の願いを汲んで作られた郷土玩具は各地にありますが、その効力は皆さん知ってのとおり。もちろん効果絶大という訳ではありません。
でも、それらの存在を頼ることで心が少しでも楽になるなら、それはそれでありがたいこと。郷土玩具たちも喜んでいると思います。
※北萬の「べらぼう凧」も掲載されています(↑)。
飾り物としても「べらぼう凧」も良いですが、いつか秋田の空に悠々と凧を上げてみたいです。
北村凧提灯店「北萬」
秋田県能代市日吉町7-3
℡.0185-52-7978
http://www.kitaman.sakura.ne.jp/
※在庫があれば、こちらの工房で直接凧を買うこともできます。